【書評】『収容所のプルースト』を読む。~『失われた時を求めて』を久しぶりに読み返しました。

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収容所のプルースト (境界の文学)という本を読んでみました。

きっかけは日経新聞(2018年2月27日火曜日)。「プロムナード」というコラムで紹介されていました。

ソ連強制収容所に連行されたポーランド人画家のジョセフ・チャプスキによる、極限状態の中で行われたプルースト失われた時を求めて』の連続講義の記録。

講義は当時のフランス芸術の様相から、プルースト自身と『失われた時を求めて』の主人公の同一性、私が好きなキャラクターの元娼婦「オデット」やドストエフスキーについて触れながら、ある時唐突に終わります。

零下40度を下回る環境で一日を過ごした後、悪臭に満ちた食堂でこの素晴らしい講義が行われたのです。そしてこの講義を聞いたであろう、ほとんどの同房者はその後虐殺されます。(カティンの森事件wikipedia

講義のほかに、この本にはカラーのノートの図版も多数掲載されています。一部日本語訳をノートの図版に載せてくれているのも素晴らしいです。

私にとっての『失われた時を求めて

15年ほど前に読んだ『失われた時を求めて』は、私にとって「小説」という芸術の新たな扉を開けてくれた、思い出深い存在です。

 それまで読んできた小説とは違う、こんな面白さも小説にはあるのかという、驚きと喜びを与えてくれました。

失われた時を求めて 1~第一篇「スワン家のほうへI」~ (光文社古典新訳文庫)[Kindle版]
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 『失われた時を求めて』には、数行~時には数十ページにわたる、話の本筋から直接関係の無い、長々とした比喩がそこかしこに出てきます。

最初は「なぜ、こんな話の進み方が遅くなるような回り道のような話ばかりが出てくるのか」と思っていました。しかし、ある時ふと、その回り道のような文章がとても美しいということに気が付いたのです。

例えば、お気に入りの公園をゆっくりと散歩をしているときに、いつもは通らないような小径にふと足を向けてみる。すると、とても美しい花が一輪咲いていることを発見して、とても幸せな気分になったということは無いでしょうか。いつもの散歩では決して気が付かなかった回り道に、人知れず存在していた幸せの種、そしてそれを見つけた喜び。『失われた時を求めて』にはそんな言葉に満ちています。

先が気になり、どんどんページをめくる小説とはまた違う、ゆっくりだけど言葉の隅々まで目を留めて、時には戻りながら、ページを進めるという読み方の素晴らしさに気が付くことができた、私にとって特別な本です。

昔は図書館で鈴木道彦さん訳のハードカバーの本を借りて、何度も延長しながら読みました。今は懐かしみながら、久しぶりにkindleで読みはじめています。分厚い本をめくり、だんだん終わりに近づいていく楽しみはありませんが、通勤にも気軽にもっていけ、注釈もタップ一つで簡単に見れる手軽さはいいですね。昔はおそらく「第三編 ゲルマントの方」くらいでやめてしまったような気がします。

収容所のプルースト (境界の文学)に出会ってもう一度、今度は長い時間をかけて全作通読に挑戦してみたくなりました。

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